興福寺の十大弟子の彫刻は舎利佛、目けん連、
須菩堤、富楼那、迦旃延、羅ご羅の六体が遺っている。
そのうち今舎利佛と目けん連が奈良国立博物館に、
須菩堤が東京国立博物館に寄託されている。
私は幸いにも興福寺と両博物館の御好意によって、
たしか昭和45年に奈良国立博物館で
目連尊者を写生させていただいて以来、
舎利佛（当時は興福寺に在り）、須菩堤、羅ご羅と、
これまでに四体を写生することが出来た。
この『僧』はそのうちから須菩堤と
羅ご羅の両尊者を作品にしたものである。
いずれは残る四尊者も作品にしたいと願っている。
（文藝春秋刊『奧村土牛/自作自解』より jul.25 1979)

今度の『仏』は、（中略）
仏像を彫刻的に描くのでなく、
生きたる人間の気持ちで
描いて見たいと思いました。
仏の姿をかりて
自分の心を表せないものかと思いました。
私は若い頃から国宝『釈迦十大弟子像』に
心を惹かれてまいりましたが、
3年前から写生を始めて、
１躰ずつ機会を作って
できるだけ追求して来ました。
先頃漸く４躰を済ませました。
聞くところによると、
現存するのは６躰だけだそうですから、
残り２躰を続けたいと思っています。
従って『仏』はこの十大弟子の２躰を取材し、
6月から制作にかかりましたが、
仕事は楽しくすすみ
私の心もちは表現できたように思います。
（『三彩』373号 Oct. 1978）

松江の近くに黒牡丹の名所の島があり、
知人から毎年送られてくる。
蕾を朝剪って飛行機で昼頃届く。
それが一寸開きかけたところを描いた。
全く黒ではないが、
紫の濃いのを以て黒牡丹というらしい。
（文藝春秋刊『奧村土牛/自作自解』より jul.25 1979)

島根県の松江に大根島
というところがありますが、
知人が居りまして、
そこが牡丹の名所なので毎年牡丹の頃、
飛行機で4時間で着くものですから、
切ったばかりの牡丹を送ってくれます。
黒牡丹というのがあると話では聞いていまして、
一度見たいと思っていましたが、
今度初めて見ることができ
画心をそそられました。
（『第4回現代日本画10人展』図録 山種美術館 1980）