12 ガレットとクレープ レストラン&カフェ『Gwenn Ha Du(グウェン・ア・ドゥ)』

 レストラン&カフェ『Gwenn Ha Du(グウェン・ア・ドゥ)』 Aug.11 2019

阪急今津線、小林駅線路沿い住宅街に突如、お伽の国から飛び出してきたような小さな一軒家が現れる。ここがガレット、クレープ、ブフ・ブルギニョンが美味しいと今大評判のレストラン&カフェ『グウェン・ア・ドゥ』である。

           オーナーのエリック・オリビエさん

ブルターニュ語で『グウェン』は白、『ドゥ』は黒という意味、白と黒はブルターニュ旗に使われている地方色である。ブルターニュ地方は、フランスに統合されるまでの500年程は公国であった。現在のブルターニュ旗は、その公国の国旗である。故郷をこよなく愛するオーナーのエリック・オリビエさんが店名を『グウェン・ア・ドゥ』と名付けた。日本人にとってクレープは馴染があるが、ガレットについてはあまり知られていない。クレープは小麦粉、牛乳、卵などを合わせ溶かした生地を使うが、ガレットは蕎麦粉を生地にしている。ともにブルターニュを発祥の地とする食べ物である。

昼食、夕食にガレット おやつ、デザートにクレープ

左は、Galettes Complete ガレット・コンプレット、昔のガレットは質素で具材は卵、ハム、チーズのいずれか一種類が主だった。その3種類の具材が全て入った豪華なガレットという意味のComplete、ガレットの代表格メニュー
右は、Crepe Caramel au beurre sale クレープ・キャラメル、ブルターニュ地方ではバターとミネラル豊富な海水で作った天然塩(ゲランドの塩)が有名。お菓子には通常無塩バターを使うが、ブルターニュ地方では有塩バターを使用、キャラメルにも天然塩を加えた伝統の“塩バターキャラメル”がある。『グウェン・ア・ドゥ』自家製の“塩バターキャラメル“をたっぷりかけた人気のクレープ

石で焼いたことからフランス語で小石を意味するガレ(galet)にちなんでガレットと名づけられたというのが通説なようだ。小麦粉のクレープは19世紀になって出来たパンケーキの一種。日本ではおやつやデザートとして食べるのがポピュラーだが、ブルターニュ地方では朝食として食べている。その元になったのがガレットで昼食や夕食の定番料理とされている。ウィキペディアによると、ブルターニュ地方は、土地が痩せ気候も冷涼なため、小麦の栽培が困難なことから蕎麦を常食にしていた。古くは蕎麦粥や蕎麦掻にして肉と一緒に食べたりしていたが、偶然、蕎麦粥を焼けた石の上に落としたところ薄いパン状に焼き上がることを発見、蕎麦粉を焼いてパンの代わりに食べるようになったと記されている。

『グウェン・ア・ドゥ』メニュー
ガレットメニュー  http://gwennhadu.jp/menu.html#galette 
クレープメニュー http://gwennhadu.jp/menu.html#crepe

夕食時限定の特別メニュー ブフ・ブルギニョン

Boeuf bourguignon ブフ・ブルギニオン、フランス家庭の代表的なご馳走メニュー。ワインの酸味と薫りが残るソースにフランス文化を感じる・・・ 素朴だがとてもフレンチな一品

ブフ・ブルギニョンは牛肉を赤ワインで長時間煮込んだ料理の名称だ。ブルゴーニュ地方で生まれたものだが、エリックさんによると、現在ではフランス家庭料理として全国的な料理になっているとのこと。『グウェン・ア・ドゥ』の ブフ・ブルギニョンは典型的なクラシックでオーソドックスな家庭料理。このブルギニニョンは夕食時限定メニュー、本当に美味しい。よき時代のフランスを知る人には味わって欲しい逸品だ。

エリックさん特製のフランス菓子

Gateau Breton ガトー・ブルトン バターがたっぷり、塩味が加わったブルターニュを代表する伝統的なケーキ。左は、お一人様サイズ、右は、15cmのホールサイズ、15~22cmまでのサイズがある
  Far Breton ファー・ブルトン(ブルターニュの焼き菓子)プルーン&プレーン

「好きこそ物の上手なれ」エリックさんが大好きで得意な菓子づくり、これからますますバリエーションが充実していくことだろう。

『グウェン・ア・ドゥ』2階に多目的レンタルスペースオープン

               レンタルスペース

2019年6月から『グウェン・ア・ドゥ』2階に、お稽古ごと、ティーサロン、誕生パーティー、創作品展示など、多目的に使えるレンタルスペースをオープンした。
レンタル料金は1時間に付き1000円と手頃なので、誰でも気軽に利用できる。ただし、コーヒーなどの飲み物を注文して貰うのが基本だ。2階へは外階段を上って入室する構造なので、1階のように常設レストランとしては使用できないが、10人から15人程度の忘年会や食事会は受付けている。

エリック・オリビエさんの『人となり』

        エリック・オリビエさんと故郷ブルターニュの海

エリックさんの父親はパン職人だった。夜12時に仕込みを始め、終了するのは朝8時、毎日寝る暇がないほど働いた。当時の仕事場は粉塵がいっぱい舞う劣悪な環境だった。アレルギー体質の父は、ひどい喘息を患った。エリックさんはパティシエを志していたが、父は息子に「お前も同じ体質だから小麦を扱う仕事はやめた方がいい」と気遣った。父親の苦しむ姿を見て、彼はパティシエになることを断念した。エリックさんは、新たな人生の目標を抱いた。故郷のガレットやクレープ、家庭料理などの食文化を外国に伝えたい。そんな夢をもってエリックさんはフランス資本のリゾートホテル社員としてポリネシア、オーストラリア、イタリア、ブラジル、カリブ海、スイス、グァルダループなど様々な国々を飛び回った。オーストラリアの仕事場で同僚の小林眞理さんと出会った。リゾートホテルは2年毎に勤務場所を異動しなければならない。二人の仲を知る上司の配慮があり、その後もカリブ海、スイス、タヒチと揃って赴任することが出来た。そしてタヒチに近いボラボラ島で二人は結婚した。眞理さんは、エリックさんに日本を知ってもらいたいという願望があった。そのためには、二人で日本に暮らす時間が欲しかった。従業員の中に日本人は数十名いたが、殆どが海外勤務を希望していた。眞理さんは、もし、自分が日本勤務を志願すれば受け入れられるのではないか。エリックさんと一緒の異動という条件を付けて、北海道にあるリゾートホテル支店勤務を本社に打診した。その目論見は直ぐに叶えられた。彼女の仕事は、ブティックの仕入れから販売まで担当する責任者だった。北海道支社はブティック責任者の人材を探している最中だった。日本人なら自国の言語もマーケティングも理解できるから最適という経営方針とも一致したのだろう。二人は北海道佐幌にあるリゾートホテルで働き始めた。エリックさんは、北海道がとても気に入った。夏は大好きな釣三昧、海釣りも川釣りも自在、イワナやニジマスなどがよく釣れた。ブルターニュ人は、ガレットのほかにもカキ、ムール貝、カニ、アワビなどのシーフードも好んで食べる。生活環境に違和感はなかった。冬には大好きなスキーもできたから大満足だった。

              エリックさん&眞理さん

その後、二人揃ってリゾートホテルを退職、眞理さんの実家に近い宝塚に縁あって住むこととなった。そして、2014年11月に夢を叶えるべく『グウェン・ア・ドゥ』を小林駅前に開店した。ブルターニュのガレットと関西のお好み焼きは、どちらも粉もので好きな具なら何を入れても構わないという共通点がある。ガレットが関西人に受け入れられた理由は、そんなところにあったのかも知れない。夢を達成した今、「この店を潰さないように努力したい」というエリックさんの謙虚な言葉が返ってきた。「これからはブルターニュの焼き菓子のバリエーションを増やしていきたい」と抱負を語る。エリックさんは、料理やお菓子づくりを専門的に学んだ訳ではない。自分で食べたいものがガレット、クレープ、菓子だったのである。そんな趣味が高じてプロの世界に足を踏み入れるようになった。あくまでも原点はアマチュアリズムなのだ。「子供が小さかった頃、何しているのかと思ったら、一生懸命自分の食べたいお菓子を作って、出来上がるとボーンとテーブルの上に置いて、まず自分で食べてから子供たちに与えていた」と眞理さんはエピソードを語る。ブルターニュの人々は、サッカーワールドカップでもフランス国旗ではなく、ブルターニュ旗を掲げるという。それほど強い郷土愛を持っているのだ。「文化意識が強過ぎて石頭という感じがする」と眞理さんは笑う。エリックさんの『人となり』は料理にも、そのよさが生かされている。

                ブルターニュ旗

『グウェン・ア・ドゥ』
〒665-0072 兵庫県宝塚市千種1-12-11 Tel:0797-73-5511
営業時間:月曜日~木曜日11:00~20:00 / 金曜日~土曜日11:00~21:30 / 定休日:日曜日
ホームページ http://gwennhadu.jp/

文と写真:奧村森

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