46 チズちゃんプロポーズされる

ブラジル生活にも慣れ、そろそろ言葉の問題も無くなってきた頃、日本で二人の弟達の面倒を見ていたお母さんが、大学生と高校生になったのを機会にブラジルに来て暮らしてはという話が持ちあがった。お父さんの単身赴任も3年目。海外赴任は子供がいると教育面などが一番の問題となる。

その頃、副領事令嬢・紀子さんの家に時々顔をみせる平野さんという人と出会った。彼の第一印象は日系ブラジル人かと思うほどポルトガル語が流暢、身のこなしもブラジル人そのものだった。もう十年以上もブラジルに住んでいて、日本人社会とは余り接点のない生活をしてきたかららしい。

何度か紀子さん宅で顔を合わせるようになり、お付き合いが始まった。彼はマンシェッチという雑誌社でフリーカメラマンとして働く唯一の日本人だった。出身は横浜。会社でも一目置かれる存在だった。平野さんは取材で年中忙しく旅をしていた。たまに近くで取材する時は、一緒に行くこともあった。

お父さんは彼の事を知っていたので特別何も言わなかった。チズちゃんはブラジルが好きなのでブラジルに骨を埋めてもいいぐらいに思っていた。エコノミックアニマルのお父さんでさえもブラジルの方が住みやすいし永住できたらいいねと言う始末。この考えはお母さんの猛反対で実現しなかった。

チズちゃんはブラジルが好きだから日本に帰りたくはないけど、お母さんもこちらに来てしまうと下の弟が一人になる。そんなことを話していると、そのことを知った平野さんが、チズちゃんに「帰国するのを待ってくれ」と頼んだ。そして「ゆくゆくはチズちゃんと結婚したい」と突然言った。

平野さんは、こんな身の上話しを始めた。ブラジル人のフィアンセがいて、今はポルトガルへ留学中。2~3カ月したら帰国するので、その時を待って彼女とは別れてチズちゃんと結婚したいという。チズちゃんにとっては、そんな話は青天の霹靂。

その上、彼のフィアンセの母親の家に同居しているというから、またまた驚いた。もし、フィアンセがいる事を知っていたら、お付き合いはしなかったに違いない、無責任すぎる。フィアンセは何も知らないでポルトガルから帰国するというのに。人の幸せを横取りして自分が幸せになれるとは思えない。

どう考えても、こんな話うまく行くはずもないし、誰も幸せにはならない。彼の態度も優柔不断だし、身勝手すぎるとチズちゃんは思った。チズちゃんもこの時結婚したいという願望も特になかったので割と理性的に判断が出来たのは幸運だった。

結果、チズちゃんは彼にフィアンセの帰国を待って、フィアンセと結婚することを勧めて別れることを決意した。諦めきれない彼は毎日のように電話をしてきたが、二度と彼には会うことはなかった。後に風の便りで、彼はそのフィアンセと無事結婚したと聞いた。三毛猫タヌー

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