65 チズちゃん危機一髪

リオ、ロスアンゼルス間の路線は終着地が成田なので日本人の乗客が多い。それでどうしてもリオ、ロスアンゼルス間のフライトが日本人乗組員に割り当てられる。それは、初フライトから数カ月後に起きた。この日もチズちゃんはリオからロスアンゼルスに向かっていた。

離陸後、飲み物、そして食事のサービスが終わると、客室のライトを薄暗くしてお客様にはくつろいで頂く。乗務員も次のサービスまで二部に分かれて、交代で1時間から1時間半の仮眠の時間がある。仮眠をしていない乗務員にはしなくてはならない仕事が山ほどある。

食事サービスのため、新しいトレイの入っているカートを使用済みのカートと入れ替える。洗面所のチェックと掃除。機内はとても乾燥するので、決まった時間ごとにお盆に水やジュースをのせ飲み物サービス。この仕事が終わると、やっとチズちゃんの休憩の時間が来た。そしてこの事件は起きた。

エコノミークラスの最後列の座席がクルーの休憩場所になっておりチズちゃんは右側の3人並びの座席の真ん中に座る事になった。すでに男の乗務員が窓側に座って休んでいた。頭上にはシャワーカーテンの様な簡易カーテンが付けてある。乗務員の休む姿を隠すためらしい。

やっと座ったチズちゃんが少しウトウトとしかけた時、右側の男が突然チズちゃんに無理矢理キスしようと迫ってきた。突然の事だったので怖くて言葉が出なかったが力一杯押し返し拒否し続けた。でも、日本人と違い相手はブラジル人。何しろしつこい。自分の欲望を満たすまでは、諦める様子がない。

あげくの果て「お前を辞めさせる事なんか簡単だ」と脅迫まがいの言葉をはく始末。左隣の乗務員に目を覚まして貰えないかと思ったが、熟睡しているのか無視しているのか反応がない。真ん中の座席なので通路に出る事も出来ない。彼はチズちゃんが初な新入り日本人だと甘く見ていたに違いない。

おっとどっこい、そんな事で泣き寝入りするチズちゃんではない。翌日、すぐさま客室乗務員のボス、ドナ・リリアンの所へ駆け込んだ。そしてこう言った「毎フライト、あんな事が起きるなら今すぐ会社を辞める」と。すると事情を聞いた彼女は「何であなたが辞めるの、辞めるのはその男」と言った。

後日、その男は会社から呼び出され、首になったと知らされた。彼の勤務成績は良くなく、すでにセクハラの前科があったらしかった。そして、その後、クルー休憩座席のカーテンが取り外されて無くなり、その後は、このような事件は起きなくなった。三毛猫タヌー

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