チズちゃんには故郷と呼べる所がない。あえて言うならロスとグレンデールかもしれない。日本で生まれ育ったが、父親の仕事の関係で約3年おきに日本中をあちこちと動き回っていたから、一つの場所に長く住んだことがない。そう考えてみれば20年以上住んだロスやグレンデールは故郷かもしれない。
グレンデールの家は近くにLA川、対岸のグリフィス・パークの一角には、子供達が乗って楽しめる数台の機関車がある『トラベル・タウン』。少し進むと右側の小高い丘に広がる『フォレストローン・メモリアル・パーク』。そこにはマイケルジャクソンの墓があり、世界中から人々が訪れる。
チズちゃんの近所には、馬を飼っている人が多い。朝にもなると馬に乗ってグリフィス・パークに散歩する人たちが道を行き来し、蹄の音がパカッパカッと通りに響く。でも気を付けないと、馬の湯気がたったホヤホヤの落し物があちこちに落ちているから大変。犬のように持ち主は拾って歩かないから。
チズちゃんはグレンデールのスタントン通りに住んでいた。スタントンはとても短い通りで5軒の家がある。チズちゃんの家は角から2軒目、右隣りにはシャーロンとキャシーが住んでいた。シャーロンは50代で個人医院の経理をしていて、大の動物好きで優しい人だった。
グレンデールはグリフィス・パークに近く、緑につつまれた公園も沢山あるので色々な動物がいる。公園の丘にはマウンテン・ライオン(山猫)、コヨテもいる。近くの公園にはチップモンクも住んでいて、時々動物園からホロホロ鳥や孔雀が逃げて来たり、スカンクも沢山やって来る。
ある日の夕方、隣のシャーロンが大声で叫んでいるのが聞こえた。尋ねてみるとスカンクが彼女の不在中、家の庭にやってきて、なにも知らないビーグル犬のボーガードがスカンクにちょっかいを出し、そのお礼にスカンクにガスをスプレーされたという。あまりの臭さにボーガードが家に逃げ込んだ。
一度、スカンクにガスを吹きかけられると簡単には臭いをとることは出来ない、おまけにボーガードがシャーロンのベッドに乗ってしまったから、たまらない。家中スカンクの臭いが充満してしまったという。結局シャーロンはベッドのシーツ一式を廃棄処分にしなくてはならなかった。
その上、犬のボーガードは普通のシャンプーではスカンク臭は取り除けない。通常、アメリカでは強力なスカンク臭は大量のトマトジュースで洗い流すと、その臭いは取れるというのが常識。シャーロンは大量のトマトジュースをスーパーから買い込んでボーガードを洗い、やっと一息ついた。
それでも、家中のスカンク臭は頑固で2~3日とれないのでシャーロンとキャシーはそれまでの間友人の家に身を寄せていた。それほど、スカンクの臭いは強力なのだ。スカンクが近所に来ると、その臭いですぐわかる。なので、すぐに犬を家にいれたりしてスカンクに注意することが必要となる。
スタントン通りは、馬を飼っている人が多いので何時も飼葉が馬小屋に沢山積まれている。その為小さな灰色の野ネズミが繁殖している。我が家の台所の流しの下に小さな穴があって、それを知らないでいたら、ある日ベッドルームに何やら丸い影がチョロチョロと行ったり来たりしているではないか。
怖いのでベッド上で観察していたら何やら灰色の物体。よく目を凝らしてみると小さな野ネズミ。慌てて2軒先の隣人、パピーに電話をした。パピーはネブラスカ州出身のドイツ系アメリカ人彼のワイフも同郷人で退職するまではロッキードで働いていて、ワイフの名はビューラ、美容師をしていた。
電話をかけるとパビーは「どうした、何かあったのか」と言った。チズちゃんは慌てふためいて「Ratがベッドルームにいるの、捕まえてくれない」と頼んだ。早速パビーがやって来た。両手には頑丈な皮手袋をはめて。というのもチズちゃんはネズミという単語をRatといったからだった。
チズちゃんにとってはRatもMouseも日本語ではネズミ。Ratはネズミでも大きなドブネズミの事でサイズのちいさなネズミはMouseというらしい。パピーはネズミを見るなり「マウスじゃないか、ラットじゃないよ」と言ってアハハと笑った。どうりで、重装備でやって来た訳だ。三毛猫タヌー
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