テレビプロダクション・イーストのオフィスは南青山骨董通りにあったので、ニノエおばあちゃんの家がある武蔵小金井か国分寺に住まいを探す事にした。この近隣だと中央線と銀座線で交通の便も良いから。
早速、帰国してすぐに家探しに取り掛かった。不動産屋に電話をいれてみる。先方は「どんなお部屋をお探しですか」と聞くので、「なるべく広くて、駅からあまり遠くない所で1LDKか2DK」とこたえた。すると「御夫婦ですか」と言うので「いえ、1人です」と言うと「私どもはご家族にしか物件をお貸しできません」とけんもほろろ。電話を切られてしまった。
1人暮らしの女の人は広い物件に住む権利もないのか、ワンルームにしか住むことはできないのか、家賃をはらってもだめなのかとショックだった。次の不動産屋は「この物件は家族用で、結婚をする予定があるのですか」と聞いた。チズちゃんは正直者で嘘はつけないから「いえ、そんな予定はないです」と言うとまた断られてしまった。
チズちゃんは、もういい加減にしてよ。日本は何て差別をする国なのかと、母国ながら日本が嫌いになりそうになった。帰国して東京に暮らすのもイヤになりかけた。この話をニノエおばあちゃんの隣に住む鳥畑さん夫婦に打ち明けると、鳥畑さんのご主人が「それなら、僕がチズちゃんの伯父さんになってあげるから、一緒に探そうよ」と申し出てくれた。
鳥畑さんは力強い助人だった。彼は自宅の庭に学生さん専用の小さなアパートを経営していて、一応大家さんなのだ。次の日、彼と一緒にアパート探しをすることになった。
国分寺の駅前の不動産屋に入ると鳥畑さんは、店の主人にチズちゃんがアメリカから帰ってくるのに家を探していること、荷物が沢山あるので広い物件を探していること、チズちゃんはすでにテレビプロダクションでアシスタント・プロデューサーの仕事が決まっていることを話すと、店の主人は「あっ、それなら、駅チカの新しい物件があるので紹介します」とすんなり事が運んだ。
チズちゃんは、こんなに問題なく事がすすんだのには驚いた。嘘も方便、すべては鳥畑伯父さんのお陰だ。彼が地元に住み、大家さんとして信用があったからこそ、チズちゃんも物件をかりられたのだ。あの時のことは今も感謝している。三毛猫タヌー
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