一方、新しい生活をする国分寺のマンションの準備も進んでいた。とりあえず冷蔵庫はすぐに必要なので、所沢に住む従妹のひろ子ちゃんにお願いをして事前に買ってマンションに入れてもらうことにした。鍵は前もって渡してあった。
アメリカと日本の遠距離引っ越しは、チズちゃん一人で全てするので大変だった。日本の空港に到着すると、税関に別送品の申告をしておかなければならない。そうしないと日本に引っ越し荷物が届いた時に受け取れなくなるので忘れてはならない。
なるべく早く勤め先のイースト本社に挨拶に行く必要がある。市役所に住民票の届出をした、山ほどすることはある。NHKの集金人が引っ越し中に早々何の届けもだしていないのに何処で知ったのか諜報員のようにやってきて、マンションの入り口にNHKのワッペンを張っていった。アメリカにはNHKのような国営放送局がないので代金を徴収されることもない。
日本に引っ越した当時は、まだ携帯電話が普及していなかった。新しく電話線をひく必要があった。電話をひく代金として何と7万円が必要だというではないか。アメリカでは初めて電話をひく場合は電話局に連絡をすると2日ぐらいですぐにひいてくれた。その時の代金は26ドルだった。
アメリカでは引っ越しをする場合、払った電話設置料金を丸々返金してくれる。チズちゃんがアメリカから日本に引っ越す時には、全額返却の小切手が送られてきた。しかし、日本で払った7万円は二度目の引っ越しをする際に電話局に尋ねてみたが、一銭も返却されなかった。そして、あのお金はなんのためで何処にいったのか、まるっきり判らない。
日本に帰国して、一週間目に青山の骨董通りにあるテレビプロダクション『イースト』に挨拶に行くことになった。家は国分寺なので中央線と山手線経由して、渋谷で地下鉄銀座線に乗り換えて表参道でおりるのがルートだ。チズちゃんは、子供の頃から日本中にお父さんの仕事の都合で住んだことがあったが、東京には生まれてこの方住んだことが無かった。勿論、仕事や旅行では行ったことはあるが住むのは初めての経験だった。
初通勤の朝、家から数分のところにある駅に行った。会社は10時始まりなので8時半ごろにでかければ十分大丈夫だ。アメリカでは通勤は自分の自動車だったし、電車通勤はないので一度も朝のラッシュなどに遭遇したことはなかった。やはり東京、人が多い。朝の通勤時間の駅では、多くの人でごったがえしていた。みんな綺麗に列を作って並んで待っている。チズちゃんも真似をして行儀よく並んで電車をまった。
ついに電車が構内に入ってきた。電車のドアが開いたと思ったら、アッという間にチズちゃんは綺麗に並んでいたはずの列からはじき出されていた。気づいた時には電車はドアの所まで人で一杯、入る余地もなくドアは無常にも閉まり、電車は行ってしまった。まあいいか、次の電車に乗れればとチズちゃんは思った。ところが、電車が行ってしまうと、駅構内は、また直ぐに人であふれた。信じられな~い。
チズちゃんは、次の電車にゆっくり乗れると高をくくっていた。ところが、とんでもない。どの電車も来るたびに即満員になり、知らない間に列からはじきだされていた。チズちゃんはこんなことをしていたら一生電車に乗り遅れると焦り始めた。
もう二度も電車をのがしている。よくよく観察してみると、並んでいる人の後ろにピタリとくっついていないと、アッという間にはじき出されてしまうことが分かった。3度目の正直、やっと満員電車に乗ることができた。これから毎朝、この乗車戦争をするかと思うと気が重くなった。三毛猫タヌー
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