157 テレビプロダクションでの仕事

いよいよチズちゃんの東京での仕事が始まった。イーストはテレビプロダクション。各自の仕事時間に合わせて出社する。各々が、マチマチの時間に出社することになる。チズちゃんは、まだこれといった仕事についていないので10時頃に会社に行くことにした。
チズちゃんの仕事の肩書はアシスタント・プロデューサー。会社は普通の会社とは違い何時に出社しても「おはようございます」と挨拶を交わす。初めはちょっと違和感があったが慣れると、それも普通になった。まず、最初の仕事は全日空の機内で流す15分のビデオ・クリップの仕事だ。
90年代、全日空の機内に備え付けてあった『翼の王国』という雑誌があった。それには毎号観光地のキャンペーンが特集されていた。そのプロモーション・ビデオの制作だ。15分といっても内容に合ったシナリオ作家、ディレクター、カメラクルー、音声など。そしてタレントのキャスティングをしなければならない。
撮影クルーが揃ったら、いよいよ仕事開始。その前にクルー人数分の航空券の手配をする。15分のビデオクリップといっても何本ものビデオテープを回すので、ディレクターによっては一時間撮影できるテープを10本以上も撮ることがあるので、その後の編集は地獄になる。
膨大なテープの中から必要なシーンを選び出し、ざっと繋いで荒く編集したものを荒編という。なんといっても編集が一番時間もかかるし大変だ。チズちゃん達はそばにいて、ここがいいとか言っているだけだがスタジオの編集スタッフは何度もテープを繰り返し、繰り返し見てつないで行く。気の遠くなるような作業が何時間も続く。
テロップ(字幕)も必要な場合は入れなければならない。最後に音を入れる。ビデオクリップの編集作業はスタジオを貸切るのだが、夜借りると割安になるので通常は夕方から始まる。チズちゃんの会社は大体新宿の歌舞伎町近くのスタジオを何時も借りていた。編集作業は深夜まで続き終わるのは終電も終わった午前になることがしばしばだった。
編集作業が続いて午前様になると、新宿から国分寺の家までのタクシー代が会社から支給された。タクシー代は、毎回1万円をゆうに超えた。テレビ業界に働くということは、体力勝負の仕事ということをチズちゃんは実感した。
そうそう、イーストの東京本社に働き始めて驚いたことが一つあった。仕事を請け負うと、始めるまえに見積書を通常作成して相手方に見せる。その金額で納得したら仕事に取り掛かるのが通常の行程だ。
チズちゃんは、見積書を書かく前にプロデューサーにどれぐらいの予算で請け負うのかを聞いてみることにした。すると、彼は、こう言い放った。「見積書は仕事が終わってから提出すればいいんだよ」と。
チズちゃんはおどろいた。「えっ、見積書は仕事を始める前に提出するから見積書なのではないのですか」と言った。仕事が終わってから出すのなら、見積書にはらないのではないか。どう考えても仕事をする前に予算がどれぐらいかかるのも知らずに見切り発車とは。
再度プロデューサーに問い正しても応えは同じだった。これにはチズちゃんオッたまげた。こんな話聞いた事がない。他の日本のプロダクションで働いたことがないので分からないが、この会社はどうなっているの。チズちゃんは所変われば品変わるにしても、とても納得しがたい現実だった。三毛猫タヌー
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