毎日の中央線の通勤は大変だった。何時乗っても車内は混雑していて隣の人と体が触れ合う。ある雨の日、新宿から中央特快に乗って国分寺まで帰ろうと、チズちゃんは車内に乗り込んだ。ラッシュアワーを少し過ぎてはいたが、まだまだ車内は混みあっていた。チズちゃんはつり皮を持って立っていた。
チズちゃんがつり革を持って立っていると、隣にアルコールの匂いをプンプンさせた赤ら顔のおじさんがユラユラしながらつり革にぶら下がっていた。電車が揺れるたびにチズちゃんの方に寄りかかってくる。観察していると、それは酔っぱらっているからではなく、電車の揺れを利用して故意に寄りかかってきていることが分かった。
「寄りかかるのを止めて下さい」とチズちゃんは、キツイ口調で言ったが赤ら顔のおじさんはヘラヘラしていて聞く耳をもたない。チズちゃんは周りの男の人を見回して、この人がわざと私に寄りかかってくるのですけど、と言ってみたが誰も知らんぷり、触らぬ神に祟りなしと無視している。
やはり、都会とはこんなものかもしれないとチズちゃんは周りに助けを求めるのを諦めて自分で反撃することにした。電車は三鷹に着いたが、その酔っ払いは下車するふうもない。次の停車駅国分寺でチズちゃんは降りなければならない。三鷹で少し空間ができたので反撃する絶好のチャンス。
電車は国分寺駅に滑り込み、ドアが開いた。その瞬間チズちゃんは持っていた傘で、その酔っ払いのふくらはぎを二度力いっぱいひっぱたいた。まわりの乗客は何が起こったのかわからず、豆鉄砲をくらったかのように茫然としていた。チズちゃんはスッキリとして電車をあとにした。やられたら、やりかえす。絶対に泣き寝入りをしないチズちゃんだった。三毛猫タヌー
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