162 奥村さんとの出会い

東京に住み始めて数か月経つと、毎日毎日、満員電車に揺られて一日忙しく仕事をして帰宅する生活に飽きあきして来た。そして何処かに逃げ出したい気もちになっていた。チズちゃんの心がカサカサになり、潤いのない単調な生活になっていた。
東京で育ったわけでもなく、知り合いもほとんどいない生活は味気のないものだった。ロサンゼルスに20数年暮らしていた頃は、アメリカ人の隣人と家族同様にしていたし、クリスマス、サンクスギビング(感謝祭)は一緒に食事をして祝った。週末には友人をさそいあって公園や自宅でバーベキューをしたりして一緒に楽しむことが多かった。
東京では皆忙しく、人を家に招いたりすることも少なく、友人と会うのもレストランなどが多かったのには違和感があった。確かに日本の習慣として自宅に人を招いたりする習慣はあまりないし、お互いに招きあうのには適さないのかも知れない。どちらにしても、アメリカと日本の社会生活習慣の違いにチズちゃんは淋しさを感じた。
ある日、会社に行ってみると二人のディレクターがチズちゃんにこう言った。今日仕事が終わったら、番組で知り合ったある会社のイベントのお披露目パーティーがあるので、3人でいってみないかとの誘いだった。場所は定かではないが海岸沿いの大きな会場だった。
会社が終わってから3人で電車に乗って会場に到着すると、もう沢山の人で会場は満員だった。そこには、その頃テレビで見かけるフランス人のフランソワーズ・モレシャンやモデルの桐島カレンがいた。テレビで観る有名人が出席していて、チズちゃんはミーちゃんハーちゃん化してキョロキョロしていた。一体このイベントは何なんだろうと思った。
一緒に行ったディレクター二人に聞いてみると、なんでもこのイベントは、これから世界6か国から集まった科学者の人たちが一緒にオゾン層が破壊されはじめている南極へ探検に出掛けるためのイベントで、TBSや朝日新聞が協賛しているらしい。そして、南極探検隊の日本の事務局長となるのがディレクターの友人のOさんということが判明した。
パーティー会場は人でいっぱい。勿論知らない人ばかりで、我々3人はウロウロして手持ち無沙汰だった。こんなに人の集まるパーティーは初めてだった。友人のディレクターはOさんを探していたが、見つからなかった。飲み物を飲んでオードブルなどを食べて時間を潰していた。1~2時間経って3人は、人疲れがして帰ることにした。次の日ディレクターの一人がOさんのオフィスに連絡して、昨晩のなりゆきを説明した。
ディレクターのDさんがOさんに電話連絡をすると、Oさんが「それなら、オフィスのある世田谷・祖師ヶ谷大蔵まで遊びにおいでよ」と言う話になった。早速、パーティーの日から一週間後、2人は仕事終了後にOさんのオフィスまで一緒に訪ねることにした。
祖師ヶ谷大蔵は新宿から小田急線に乗り30分ぐらいのところにある。お金持ちが沢山住んでいることで有名な成城学園前の一つ手前の駅だ。オフィスは駅から歩いて10分ぐらいのところにあった。駅を降りるとすぐに賑やかな商店街があり、そこを真っ直ぐ数分歩き右にまがるとオフィスだ。オフィスは大変便利なところにあった。
オフィスは一軒家で2階建ての白い洋館、白壁で一部壁が黄色と青に塗られていて、いかにもモダン好みの建築家が建てた感があった。外には4台の車が停められる駐車場もあり、どうみてもオフィスの感じはしなかった。その日初めてチズちゃんはOさん、つまり今の相棒、奥村さんに出会ったのであった。三毛猫タヌー
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