89 ドイツ・ヴィースバーデンで初めてイルサ叔母さん、ヘルムート叔父さんと会う

1974年の休暇はハネムーンにあてた。行先はテリーの叔父の住むドイツ。叔父さんとは、二人とも一度も会ったことがない。テリーのお父さん、ヨアッヒム(通称ジャック)は3人兄弟、兄のヘルムートとヘルベルトがいる。叔父さんと一度会いたいと思っていたので、この機会を利用することにした。
ロスからルフトハンザ航空に乗り、約12時間でフランクフルト空港に到着、その足で電車に乗り換え20分ほどで叔父さんの住むヴィースバーデンに着く。この町はヘッセン州にあり高級温泉保養地として知られるクアハウスと呼ばれる立派な建物があり、中にはカジノやレストランまである。
街中にはアドラー源泉からひかれた66度のお湯が入浴や暖房にも利用され、街のあちらこちらにコップが置いてあり、その源泉が飲めるようになっている。ドイツで温泉とは思わなかったチズちゃんは驚いた。
ヴィースバーデン駅から今度はバスでクラレンタルという地区まで乗ってやっとヘルムート叔父さんの住むアパートメントへやってきた。長旅でちょっと疲れてはいたが叔父さん、叔母さんに会えると思うとワクワクした。私達の顔をみると二人はとても喜んで迎え入れてくれた。
叔母さんの名前はイルサ、青い目で長い白髪ををひっつめにしていた。叔父さんはネクタイをしめ背広姿で背はあまり高くはないが堂々とした威厳のある人だった。二人とも英語も話すがテリーとチズちゃんは少しドイツ語をかじったことがあるので、つたないドイツ語を使ってみることにした。
テリーがドイツ語で何かいうと二人は興味津々だが、怪訝な顔で分からない様子。そこでチズちゃんがテリーの言った言葉をオーム返しに言うと、なんだか知らないがそれが通じるので、だんだんとテリーの機嫌がわるくなって来る。テリーのドイツ語が英語の訛りが強く通じにくかったらしい。
叔父さんと叔母さんには子供がいない。二人の馴れ初めは叔父さんがカッセルという街で医者として働いていた病院で知りあい結婚したという。叔母さんはその病院で看護師として働いていたのだという。二人はとても仲がよくイルサは料理上手で美味しい料理を沢山作ってくれた。
今もイルサに貰ったレセピーで時々作る料理がある。ヘルムート叔父さんはとても好き嫌いが多く、野菜が大嫌い。食事の度にイルサが「野菜も食べて下さいね」というと嫌そうにパセリをちょこっと食べては「今日は野菜を沢山たべたよ」とニッコリと微笑む、とてもお茶目でユーモアのある人だった。
叔父さんは女の人にはスカート姿が美しいと思っていた。毎日パンツ姿のチズちゃんを見るたびに「スカートは持っていないの」と尋ねた。アメリカに生活し始めてから、そういえば何時もパンツ姿だ。チズちゃんが「何時もパンツだよ」というと、それなら買ってあげるからスカートにしなさいと言う。
叔父さんにとってパンツは男の象徴と考えているようだった。その頃、チズちゃんはアメリカに帰ってもスカートはほとんど持っていなかった。今は男の人もスカートをはく時代となり世の中の移り変わりの速さに驚く。ちなみに、持っていたスカートといえば航空会社のユニフォームだけだった。
バルコニーから眺めると緑が広がり、時々兎の親子が顔を出す。遠くにはロシア教会の金色に輝く塔が見える。朝は教会からの鐘の音で目が覚める。日曜日になると叔父さんは、チズちゃん達をクアハウス公園に連れて行ってくれた。そこではオーケストラが音楽を奏で、人々がダンスを踊る昼下がり。
アメリカで慌ただしい生活をしていたチズちゃん達は、ここでは全く違った時間がゆっくりと流れているのを感じた。まるで別世界のようだった。チズちゃんは、旅をしても観光名所だけでなく、そこに住む人々と触れ合い、流れる時間を楽しむのが好きだ。
毎朝、チズちゃん達はイルサ叔母さんに「パン屋さんに行って、ブロッチェンとカイザーというパンを買って来て」と頼まれた。パン屋に行くと店の前に何人かがすでに待っている。ドイツのパン屋さんの開店は早い。みんな焼きたてのパンを買って朝食にする。外はカリカリ中はモッチリで美味しい。
日本もアメリカも朝はトーストを食べる。ヘルムート叔父さんはチズちゃんたちに「朝は何をたべるの」と聞くのでテリーが「トースト」だと応えると、叔父さんは「トーストは病人の食べるものなんだよ」とチズちゃん達を諫める。たしかにドイツにもトーストはあったが種類も少なくまずかった。
イルサの朝食はブロッチェンと様々なチーズとハムのスライスにカシスや杏のジャム、それに必ず茹で卵。とてもカワイイゆで卵スタンド入り、冷めないように手編みのニワトリカバーがかぶせてある。余りに可愛いので褒めたら帰国する時にそれをプレセントしてくれた。勿論、今も大切に持っている。
ヴィースバーデンの街にでると店が軒を並べている。文房具屋で茶会の時に使うネームカード立てを見つけた。今は存在しない東ドイツ製で木製、手作り。子供がカラフルな花をもっている。値段は安くはないがチズちゃんはテリーがいくら反対してもこれだけは買おうと決心した。
ドイツといえばソーセージ。街を歩けば「シュネル・インビス」(屋台)が目につく。そこで食べるソーセージは、焼いてあるものと茹でてあるものがあり、チズちゃんは焼いてあるソーセージが好き。ブロッチェンの真ん中にソーセージがはみでていて、マスタードをつけて食べると最高においしい。
バウムクーヘンは、ドイツ発祥のお菓子ということは日本人なら誰でも知っている。ドイツ旅行前にロスの日本人の友人からドイツに行くなら、本場のバウムクーヘンを食べてみたいので是非買ってきて欲しいとたのまれた。何軒ものお店を探したが見つからない。
やっとのことで一軒の店でバウムクーヘンを発見。聞いてみるとバウムクーヘンはクリスマスのお菓子なので普通は作らないという。どうりで見つからないはず。多分、今では本場のドイツよりも日本のバウムクーヘンの方がおいしかもしれないし何時でも手に入いるようだ。三毛猫タヌー
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