59 まいった~、ないちゃったあ‼

授業が終わると担当のお医者さんと雑談が始まった。みんなが客室乗務員の訓練生であることなど。すると彼がチズちゃんに「君は日本人なの」と話しかけてきた。その頃リオには、日本人が居なかったので珍しい存在だった。チズちゃんは、今は男にウツツを抜かしている場合ではないと思った。

数日後の夜、宿舎で勉強をしていたチズちゃんに一本の電話がかかってきた。リオには誰も特別な知り合いはいない。尼さんに呼ばれて行ってみると、病院で会った例のお医者さんだった。どのようにして私達の宿舎を見つけたのか分からないが「どうしても一度話したい」と食い下がる。

もう宿舎の前に来ているので下まで降りて来てくれと引き下がる様子もない。仕方なく降りて宿舎前の公園のベンチに腰掛けて話した。チズちゃんは「勉強しないと駄目だから貴方とは付き合えないし、付き合う積りもないので、ごめんなさい」と言って帰ろうとすると、彼は突然大声で泣き始めた。

えっ、こんなことでブラジル人は泣くのとチズちゃんはビックリした。公園なので通りすがりの人が怪訝そうな顔で私達二人を見ている。まるでチズちゃんが彼を虐めているように見える。すると突然廻り一面に煙が立ち込め、その煙はだんだんと濃くなりモウモウとして向かい側が見えなくなった。

その時、突然二人の座っているベンチのすぐ前を大きな猫ぐらいの動物がサッと横切って行った。お医者さんは泣いているし、公園は煙でホワイトアウト状態。どうしたらいいのか判らない。とにかくお医者さんには可哀想だったがチズちゃんの事情を理解してもらい、やっとのことで帰ってもらった。

あとで、尼さんに公園での煙の出来事を聞いてみると、リオでは定期的にペストコントロールのために薬で害虫駆除を行っているとの事。チズちゃん達の前を横切った大きな猫のような動物は巨大化したドブネズミだったらしい。30センチはゆうにあった。おー怖い。思い出すだけでもゾッとする。三毛猫タヌー

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