85 南米からのフライトと麻薬の話

南米からのフライトは、どの国の空港でも税関から目を付けられている。というのも麻薬やコカインなどの薬物密輸が多いからだ。まさにVarig航空は南米を網羅している。フライトがリオからロサンゼルス空港に到着すると、何よりも先に麻薬犬の大きなシェパードが係官と共に機内に乗り込んで来る。

その日も、クルーが交代してロスからチズちゃん達のクルーが機内に入ると早速、麻薬犬が座席下の手荷物をクンクンと嗅ぎ始めた。そして、黒いアタッシュケースの所でピタッと止まり、両足でガリガリと引っ掻き始めた。すると係官がチズちゃんに「この席の乗客はどんな人ですか」と尋ねた。

チズちゃんは「日本人の方です」と答えた。程なくして給油が終わりトランジット・ルームから続々と乗客が戻ってきた。早速、この座席の乗客に尋問が始まった。係官はまずアタッシュケースを開けるように命じた。乗客はいぶかしげに係官の言葉に従った。中から小さな封筒サイズの紙袋が出てきた。

麻薬係官は血相を変え「これは何だ!」と鋭い口調で指さした。その乗客はキョトンとして係官を見上げている。チズちゃんはすぐに判った。それは日本の医者が出す、5角形状のトンプク服薬だった。案の定、乗客はチズちゃんに「これは日本のお医者さんから貰った胃薬です」と怯えながら答えた。

チズちゃんは係官に胃薬だと、その旨を通訳した。チズちゃんは可笑しくてたまらなかったが、笑いを押し殺して我慢した。アメリカにはこんな形状の紙で包まれた薬はない。それで麻薬と勘違いされたらしい。だが何で麻薬犬が胃薬に反応してアタッシュケースを引っ掻いたのかは未だに分からない。

後日談として、このアタッシュケースは乗客が友人から借りた物で、犬に引っかき傷をつけられてしまい損傷、その乗客が弁償するはめになったとのクレーム報告が会社にあり、結局その代金をVarig航空が肩代わりしたと言う。ちなみに、傷をつけたアメリカ税関は一切弁償しないのが通常である。

以前テロ問題が勃発した際、一時、荷物の番号式ロックをかけるのが禁止されたことがあった。チズちゃんは忘れてロックしてしまい成田空港について受け取った荷物は無残にもロックが壊されてガムテープがベタベタと貼り付けてあった。

荷物をこじ開けたアメリカ税関は一枚の紙きれを荷物内に入れただけ。それには「不審物があったので開けました。次回は番号式ロックを使わないで下さい」と書いてあった。謝罪の文面は無かった。その不審物とは『ヤシの芽の缶詰』だった。勿論そのスーツケースは二度と使えなくなってしまった。三毛猫タヌー

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