4 緊急速報!!「蛍発生」

              Shirase river 白瀬川

初夏になると、我マンション入口の掲示板に速報「蛍発生」の張り紙が出る。引っ越してきた当初は、これを見て一瞬何か緊急事態でも発生したのかと驚いたが、その後は、また蛍の季節がめぐって来たのかと感慨深い。

大体、緊急速報といえば、地震や事故といった災害や良くないことが多いが、これは嬉しい緊急速報である。蛍の発生場所は、我マンション前の白瀬川。余り水量が多くなく川の中には草が生い茂っているところもある。それが蛍にとっては良いのかもしれない。夜になると近所の人達が数少ない蛍を見ようと集まってくる。

そんなある夜、母と一緒に行ってみた。一番多いとされる白瀬橋の辺りから見てみると、ポァーポァーと光が点滅している。何か宝物探しでもするように「あっ、あそこ!!見えた見えた」と3人で喜んでしまった。確認出来たのは5~6匹だが、何しろ街灯や車が引っきり無しに通るので明るすぎて蛍の光が見えずらい。暗ければ多分もっと数が見えるとは思うのだが残念だ。

蛍といえば思い出すことがある。20年ほど前、縁あって新潟県の安塚町(現在は上越市)に築150年の茅葺家屋を借りていた。その頃は東京暮らしだったので、時々友人と一緒に訪れていた。丁度6月に行く機会があり、町役場の滝沢さんが「夜になると蛍が観られますよ」と教えてくれた。私たちは暗くなるのを楽しみに蛍が現れるのを待った。

しかし、何時になっても現れない。翌日、滝沢さんに「蛍なんていないじゃないの」と詰め寄った。すると滝沢さんが「蛍の呼び方を知らないからですよ」と言う。勿論こちらは知らない。蛍なんて子供の頃見たきりで、その後、蛍鑑賞のチャンスは一度もなかった。滝沢さんは「今夜8時ごろになったら車のヘッドライトをパチパチ点滅させて下さい、そうしたら蛍が仲間だと勘違いしてやって来ますよ」と言うのである。

「へえー、そんな事あるの」と私達は半信半疑で夜を待った。いよいよヘッドライトをつけてパチパチと点滅してみる。すると「何ということでしょう」山の向こうから蛍が車のライトにつられて、どんどんと飛んでくるではないか。

そして友人の白いシャツは蛍で埋め尽くされ、それは星を散りばめたようにポーッ、ポーッと光り出した。こんな光景は初めてである。滝沢さんの言ったことは本当だった。私達にとって、この貴重な体験は後にも先にもこれ1度だけである。

文:吉田千津子 写真:奥村森

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