7 ヤギの話

                 Goat 山羊

朝日新聞のコラムでヤギのおもしろい話を読んで昔のことを思い出した。昭和27年頃、生まれて間もない私の弟の顔全体に湿疹ができ、かくと皮膚が赤くなり、ボロボロと剥けて可哀そうな状態だった。母乳を飲んではいたが充分ではなく、牛乳も一緒に飲んでいた。医者の診断では、アレルギー体質なのではないかという事だった。

塗り薬を塗っても一向に良くならなかった。母は近所の人からヤギ乳を勧められた。栄養的にも優れているので、線路の向こうにある農家から茶色のビンに入ったヤギ乳を毎日配達してもらうようになった。ヤギ乳は消化されやすく、アレルギー源もないうえ、おまけに栄養は母乳の2倍もあるという。弟はしばらく飲んでいたら、知らない間に湿疹は嘘のように消えていた。

朝日新聞によると昭和50年代、今では高級住宅街となっている目黒区柿の木坂に日本初の「ヤギ乳処理工場」が設立されたという。現在、日本のヤギ頭数は、推定約2万頭で昭和57年当時は68万頭ものヤギが飼われていたという。その8割がミルク搾乳用だったとは驚く。草を食べさせるだけで飼えるヤギの別名は「貧者の乳牛」とは良く言ったものだ。

時々、私も弟が飲みきれない搾りたてのヤギ乳を飲んでみたが、生ぬるく、青臭い香りがしたのを覚えている。余り美味しいものではなかったような気がする。ヤギで思い浮かぶのは、沖縄料理の「ヤギ汁」である。沖縄の人々はヤギを今でもよく食べる。最近沖縄にヤギ牧場ができ、ヤギ乳はもとよりヨーグルト、チーズなども作っているという。

ヤギ乳といえば、フランスでは何処に行ってもヤギのチーズ「Chevre シェーブル」を作っていて、とても美味しい。かたちは乳牛のチーズよりも小さく、白く柔らかいチーズである。ポルトガルのコインブラを訪ねた時には、レストランでヤギのローストを案内人のクリスチーナが「ヤギの料理はグルメなのよ」と言いながら美味しそうに食べていたのを思い出す。アメリカのスーパーでもアレルギーの子供用にヤギ乳は売られている。

鹿児島大学農学部の中西教授によると、牛に比べてあまり場所も取らない上、タンパク質豊富、糞は堆肥になり、草も食べるので草取り不要ということもあって、ヤギは世界中で増え続けているという。それなのに何故、日本だけが激減しているのかと疑問を投げ掛けている。

特にヤギは、エコロジー的に考えてもとても優秀な家畜だ。最近増加しているアトピー疾患にもヤギ乳は良いのではないか。これからの食糧難時代を危惧する前に、もっとヤギを飼うことを奨励してみたらどうだろうか。

文:吉田千津子 写真:奥村森

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