ふと回したテレビ番組で放送された「シャチ」のドキュメンタリーを見て、私はとても清々しく暖かい気持ちになった。彼らは北海道沿岸から流氷が去ったあと、春から夏にかけて知床の海にやってくる。
シャチは高度な知能を持った哺乳類である。英語ではオルカ。シャチといえばシーワールド等で芸をしている姿ぐらいしか見たことがなく、特に生態などには興味を持ったことはなかった。ところが、この番組を見てから「シャチ」が大好きになった。お利口で、とても家族愛に溢れているからである。
シャチはとても家族の絆が強く、お互いに慈しみ合いながら生きている。そして家族単位で行動するのである。こんな話がある、ある日砂浜に子供のシャチが打ち上げられた、それを心配した大人のシャチが浜辺にやってきて、離れようとせずに結局一緒に死んでしまったそうだ。多分それは母親だったに違いない。
シャチの生態はまだまだ謎が多い。取材班は長年の謎を解くべく研究者とともに、シャチの群れを探して知床の海を駆け回る。その謎とは春になるとシャチの家族が集まって大集団を作る。一列に等間隔に並び泳ぎはじめたと思ったら、今度は列を崩して、また一列に並び変える、その行動を何度も繰りかえす。
一体それは何のための行動なのか、シャチの数は多い時には百頭にもおよぶ。調べてみると集団は幾つかの家族で構成されている。調査の結果、この行動は婚活パーティーではないか。そして一列に並ぶ訳は、シャチの目は横についているので一列にならべば隣のシャチの顔が良くわかる、何度も列を崩しては一列になるのは、お見合い回転寿司の様に色々なシャチと知り合う為ではないかという結論に到達した。
そんな行動を繰り返しながら美しい自然あふれる知床の海でシャチは命をつないでゆく。としたら、まるで人間社会と同じ様で、愛おしくなった。悲しくて、切ないエピソードもある。
ある日シャチの群れを観察していると、大人のシャチが何かを口にくわえている。よく見ると、それはまだ臍の緒が付いたままの赤ちゃんシャチだった。しかし、その子は動いていない。たぶん死産した赤ちゃんなのだ。
母親はいつまでも離すことなく、その赤ん坊を口にくわえたまま家族と一緒にその悲しみを分かち合うかのように、たんたんと知床の海を泳いでいる。その子は何処に埋葬されるのだろうか。とても切ない映像だった。
最近の人間社会ではDV、子供への虐待、自分さえ良ければという自己中心主義、ギスギスした思いやりのない風潮が蔓延している。私たちはシャチ達から沢山のことを見習う必要があるのではないか。シャチの生態を知ることで、本当に心が洗われる思いがした。
文:吉田千津子 写真:奧村森
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