2012年、兵庫県宝塚市に引っ越してきた。これまでの人生で海外生活を除けば、ほとんど東京での暮らしだった。良しにつけ悪しきにつけ、東京人としての習慣が体に染み込んでいるのは間違いない。そんな僕が、慣れない関西に住むのだから戸惑うのは当然である。
関東と関西では文化が異なり、基本的な考え方やマナーなどで大きな違和感を感じることが多い。外国人なら、お国柄の違いと諦められもするが、同じ日本人となると、そうはいかない。
初めのうちは理不尽と思っても、これから暮らす所だから事を荒立てないようにと我慢をしてきた。だが、堪忍袋の緒が切れる事もあった。転居して間もない頃、近くにある兵庫県の保養施設を見つけ、利用しようと車で出掛けた。この施設には温泉があり、湯ぶねからの眺めは絶景、しかも入浴料が500円と安価なのも魅力だ。温泉好きの僕は、施設の常連になろうと思った。
3度目に訪れたのは日曜日だった。いつもはガラガラの駐車場だが、今日はいっぱいだ。受付カウンターに何処に停めたらよいが尋ねようと、邪魔にならない場所に車を停めた。その時である、送迎バスの運転手が近づいてきて「どかんかい、そこは停めたらあかんとこや」と怒鳴る。どこに停めたらよいのか丁重に聞いても「邪魔やから、帰らんかい」と追い払う仕草をする。
さすがに腹が立った僕は「客に向かって、そんな言い方はないだろう」と語気を強めた。すると、「なんやて」と物凄い形相でにらみつける。僕は、怖くなって車を降りて受付に駆け込んだ。若いマネージャーが僕の話を聞いて冷静な対応をしてくれたので事なきを得たが、運転手は「こいつ客やないで」と大声でわめきたてる。
どうして客と思われなかったのだろうか。いろいろ推測すると、僕のカーナンバーが東京であったのと東京弁を喋った事に起因していたようだ。その後、車のナンバーを神戸に変えると、そうした事件に遭遇する事はなくなった。
大阪では、ライバル意識と地元愛から東京人に対して排他的な行動をとる人が多いと聞かされた事はあったが、宝塚でも同じなのかと唖然とした。
文と写真:奥村森
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