ポルトガルの日曜日は、旅行者にとっては退屈で下手をすると食いっぱぐれる心配までしなくてはならない。観光地に行けば別だが、レストランも大好きなスーパーマーケットもお休みで閉まってしまうからだ。在住していれば、家族や友人と食事やパーティーをするなどして楽しく過ごせるが、臨時住民にとってはそれもままならない。
これまでは、取材のために毎日移動していたので日曜日もなかった。いざすることが無くなってみると成す術もなく、ご迷惑とは思ったが武本夫妻を訪ねることにする。「セトゥーバルは港町ですから新鮮な魚が安く手にはいるのです」と言って、武本夫妻は私たちを市場に案内してくれる。
リスボアでは日曜日に市場は閉まってしまうが、ここの市場は正午まで開いている。市場は大きなドーム形をしていて、沢山の買い物客でごったがえしている。魚、肉、果物、野菜、チーズ、ソーセージなど何でもある。
今日のお目当ては新鮮な魚。魚売り場に近づくと、壁に「犬侵入禁止」と大きく書かれている。こともあろうか、その真下に茶色の大型犬がデレーっと寝そべっているではないか。ノラ犬か飼い犬かは判断つかないが、数匹が場内を右往左往している。とにかく撮影開始。
犬を撮っていると魚屋のおじさんが「俺も写してくれ」とせっつく。「これは、おじさんの犬」と聞いてみる。「そうだよ、そうだよ」と言いながら犬に擦り寄るが、犬は迷惑そうに後退りしている。武本さん曰く「このオヤジは写真欲しさに嘘ついているんですよ、いつものことですから」とおじさんの癖まで知っている。写真を撮ってあげると、おじさんは礼にと言って新鮮なタコをくれた。単なるたかりと違って良いところがある。
昼食はタコのマリネに鯵(あじ)とトロのさしみ、どれも市場で仕入れたものばかり。武本さんが魚をおろす係り、手慣れたものだ。まさかポルトガルでさしみを食べられるとは思わなかった。私たちは白いご飯で頂く。魚のあまり好きでない私でさえも新鮮な魚は美味しく、感激の極み。アッサリ派の奥村さんは、急に元気を取り戻す。
折角来たのだからと、武本夫妻は私たちを町の観光に案内してくれる。散歩しながら武本夫妻は「ここが以前住んでいた古いアパートです」と指さす。或る日、台所で料理をしていると突然天井が崩れ落ちてメチャクチャになった。このまま住んでいると命も危ういと思い、武本夫妻は今のアパートに移った経緯がある。しかし、彼らにとってはポルトガルで最初に住んだ場所なので印象ぶかいようだ。
そして、武本さん行きつけの散髪屋さん。この店は古典的で中世からタイムスリップしたような散髪屋だ。今時珍しくバリカンで散髪するとのこと。町の中央からバスに乗って、毎日曜日に開かれる露店市に出掛ける。バス代は45エスクード。この料金は切符を前もって買ったクーボンの値段。「その場で買うと倍の料金を支払らわなければならない」と武本夫人が教えてくれた。
15分程で露店市に着く。うさぎ、にわとり、セーター、カーペット、靴、オモチャ、雑貨といった具合で何から何まで並んでいる。武本夫人・睦子さんは目ざとくキリムのカーベットを見つけて、1万5千エスクードをディスカウントさせようと交渉したが失敗に終わる。
色とデザインが美しいカーペットだった。後になって買っておけば良かったと後悔しきり。睦子さんは、センスも目の付け所も良い、買い物上手だ。イタリア製アンゴラセーターが市価の半額で売っているのには驚いた。武本夫妻は500エスクードでクッションを2つとシーツ2枚セットを、たったの1000エスクードで購入、お見事の一語に尽きる。
私は以前から欲しかったプアプアの毛の付いた羊の皮で出来た上履きを買った。これでこの冬は暖かく過ごすことが出来そうだ。買い物を済ませてイレーネ・リスボアの武本さん宅に帰る。武本夫妻のアパートは家具付き2LDKで家賃8万円、窓ごしに望む港の風景は絶景で家賃以上の価値がある。午後7時、いつの日か再開を約束しておいとまする。
リスボアへの帰途、「4月25日橋」の手前から11キロの渋滞となり、東京の箱崎エアーターミナルの混雑を思い出す。睦子さんの話によると、銀行ローンが低金利になったのをきっかけに急激に車を買う人が増え、渋滞の原因になっているとのことだった。ポルトガルも日本のようになってしまうのだろうか。
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