2019年10月、ロサンゼルスに40年来の友人、シグを久しぶりに訪ねた。彼は日系2世のアメリカ人で、今年97歳になる。
会ったとたん「僕の自動車免許と自動車保険がとうとう期限切れで、もう運転も出来なくなったよ」と悲しそうに訴えた。
彼によると今年の4月まで運転していたという。もちろん近くにあるスーパーマーケットに食料を買い出しに行く程度で遠出はしていなかった。
しかし、5年位前まではワイフを連れてラスベガスに行っていた。ちょっと怖い気がしたが事故を起こしたことがないというのが、彼の自慢だった。
5月が彼の誕生日なので、その前に免許更新をしようと、いつも自動車のカギを置いてある場所に取りに行くと、有るはずのカギがない。近くに住む息子ジョーンに電話をしたが、彼も知らないという。
本当はジョーンが足の弱っている父親を心配してカギを隠していたのだ。いくら話しても聞き入れてくれない父親への最後の手段だったようだ。それが判明した時には、シグは激怒したが息子に従うしかなかった。
シグは2台の車を持っていた。一台は今月初め亡くなったワイフ、エスターの車、そして、もう一台は自分の四駆であった。直ぐに2台の車は売りに出された。こんな経緯でシグのドライブ人生は幕を閉じた。
ロサンゼルスは日本とは違い公共交通機関が発達していない。バスはあるが、何時来るかも知れない乗り物を頼りにする訳にはいかない。
日本の都会のように便利ではない。日本では電車やバスが次々とやってくる。ロサンゼルで車がないと手足をもぎとられた感がある。
家族が4人いれば4台の車という具合。アメリカでは車と保険にお金がかかるのが頭痛の種だ。今日本でも高齢者の運転が問題となり、逆送やブレーキとアクセルの踏み間違えの事故が多発している。
シグは「車がないと何処にも行けず、世の中から隔離された世捨て人の感じがして、寂しい」と言っていた。これは日本における過疎地域にも同じことが言える。
公共交通機関に頼れない人々は本当にどうすれば良いのか。日本にとっても、これからの大きな課題である。
友人シグは、たまたま近所に退職している息子夫婦が住んでいるので助かってはいるが、当分シグは運転が出来なくなったことを不満に思うだろう。
文:吉田千津子 写真:奧村森
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