昨今、殺伐としたニュースが多いなか、心がほっこりする記事を朝日新聞で見つけた。朝日新聞12月28日号の「特派員メモ2019年末スペシャル」の欄である。
トルコのイスタンブールに住む其山史晃記者の記事によると、ある日パン屋さんに入ったら「9」と表示された電光掲示板があり、尋ねてみると「上のボタンを一回押したら、パン一個を寄付。パンを無料で欲しい人は下のボタンを押すんだ」と教えてくれたとある。その数字は寄付できるパンの数だった。
このシステムはオスマン帝国時代にすでにあり、人通りの多い場所に寄付石というものが置かれ、貧しい人に寄付したい人は石のくぼみの中にお金を入れ、必要な人はそこから拝借する。これにヒントを得たパン屋さんが15年前から始めたそうだ。
200gのパンが約30円。寄付するパンの数はあまり変らないが、もらう人の数は三倍に増えたという。昨年の通貨危機が原因らしい。今は平均30人が利用しているそうだ。やはり貰う人は、恥ずかしのか、もじもじしたりする人もいるという。
通貨危機からのインフレ率は収まったものの庶民の生活はまだまだ大変らしい。経済状態が悪化し始めてから同じ仕組みを取り入れるパン屋さんが増えているという。困った時はお互いさまのトルコ人の心意気はとても素晴らしいと思った。
どんな小さな善意でも人の心を温かくする。そして、この心やさしい記者は掲示板の数を19にして帰ったという。彼のような人がもっと増えれば嬉しく思う。2019年も今日一日、2020年が良い年でありますように。
文:吉田千津子 写真:奧村森
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