フランス旅行顛末記 5

            Atelier du Lunain 絵画アトリエ

パスポート盗まれる

2011年5月16日、いよいよ今日からレンタカーを借りて4~5日間の予定でブルターニュ地方に出かける。
目的地はレンヌ、サンマロ、モン・サン・ミシェルだ。相棒は、モン・サン・ミシェルにはすでに行ったことがあり、観光地なのでとても嫌がっていたが、私は一度も訪れたことがないので是非行ってみたいと話すと、彼は渋々承諾した。
泊まりはサンマロあたりにして車でゆっくりと、あちらこちらに止まりながら行けばいいと思いホテルの予約もしていなかった。10時にレンタカーを予約してあるので、ハーツのあるモンパルナス駅に向かった。駅に着き大量の荷物をずるずると引っ張りながら店に入った。
レンタカー店には小さなカウンターがあり、白人と黒人の従業員が接客していた。白人の若い従業員が「レンタカーですね」と言った。私は車の予約票を手渡した。彼はコンピュータを見ながら「運転する人のパスポート、運転免許証、クレジットカードをお願いします」と流暢な英語で話した。
レンタカー店で相棒は、バッグの中に手を入れガサゴソ探し始めた。何度も「あれっ、あれっ」と繰り返し、何時までたってもパスポートも免許証も出てこない。私が「どうしたの?早く出してちょうだい」と言うと、相棒は「それが、確かにここに入れておいたのにないんだ、おかしいな」と答える。
「パスポートと免許証なくしちゃったの!」と私は、詰問口調で相棒を攻めた。相棒は「そんなはずないよ、ちゃんとバッグに入れておいたんだ」と言った。「本当にそこに入っていたの?他のところ に入れた憶えはないの?」と私はますます語気を強めた。
そういえば昨夜、大きなスーツケースは邪魔になるので旅行中預って貰うようクロードの家に置いて来た。多分その中に入っているに違いない。 早速、クロードに電話をしてみるが留守番電話になっている。とにかく身分を証明するものが無ければ車は借りられない。
相棒は慌ててクロード宅に置いてあるスーツケースを調べに行った。あればいいのだがと祈るような気持だった。私はレンタカー店で大量の荷物と一緒に待つしかなかった。時間はどんどんと過ぎてゆく。相棒はなかなか帰ってくる気配がない。
2時間以上たって相棒は、やっとハアハアいいながら汗だくになりながら帰って来た。話によるとクロード宅に行ってみたが、やはり留守のようで入口でウロウロしていたら、先日ドアのコード番号が間違っていた時に救ってくれたクロードの友人に、またバッタリと出会ったという。
クロードの友人に事の次第を説明すると、それは一大事とういう事になり、急遽アパートの隣人たちを呼んで話し合いが始まった。結局、クロード宅のドアの下に 伝言メモを残して戻ってきたとのことだった。これで今日は車は借りられない。クロードは何時戻って来るのかも判らない、万事休す。
4時間も待たせてもらったレンタカー店を後にクロード宅に向かった。今日はブルターニュで泊まる予定だったので、パリで泊まる所も行く所もない。クロードもまだ帰宅していないし、荷物もあるので動くことも出来ない。近くのベンチに腰掛ける。パリの街角に東洋人ホームレスが出現したかのようだ。
二人でションボリ座っていると、相棒がちょっと様子を見てくるとブラブラと歩いて行ってしまった。まったく、パスポートを無くしてしまったというのに呑気なものだ。命をとられたわけではないし、パスポートは取りなおせばいいかと自分自身に言い聞かせてはみたものの、やっぱり腹が立つ。
そこへ相棒がニコニコ顔で戻ってきた。クロードのアパートの真向かいにアトリエがあって、そこで写真を撮らせてくれるので早く行こうと誘いにきた。大量の荷物をゾロゾロと引っ張りアトリエへ。ここはクロード宅の玄関を見渡せる格好の場所だ。中では3人のおばあちゃんが絵を描いていた。
先生はマリアンといって50代のやさしそうな先生だった。話を聞くと以前クロードも生徒だったことが判り、急に親しみが湧いてきた。ことの顛末をマリアンに話すと「それは困ったわね、ここは夜9時まで開いているので、それまではここに居ても良いわよ」と言ってくれた。地獄で仏とはこの事だ。
写真撮影も無事終わり、大量の荷物も預かってもらい安心したら、急におなかがすいてきた。考えてみたら今日は一度も食事をしていなかった。早い夕食を済ませ戻って来てもクロードは帰って来なかった。それから少したってマリアンが「あっ、クロードが帰って来たわよ」といった。
もう時計は午後6時をまわっていた。早速、荷物を運び入れ、預けてあったスーツケー スの中をひっくり返して調べてみたが、やはりパスポートは無かった。何処かで盗まれたに違いない。土曜日ベアトリスのアトリエに行った時か、それとも地下鉄の中か、いろいろ考えてみても後のまつり。
結局、何処で盗まれたのか判らなかった。こうなったらブルターニュ旅行どころではない。パスポートが無いと日本にも帰れない。クロードが「今夜はうちに泊まって明日、日本大使館に電話をしてパスポート再発行の手続をしに行かないとね」と言った。
楽天家のクロードは「私なんか、ベトナムとシンガポールで2度もパスポート盗まれちゃったのよ」と自慢気に話した。 「パスポートを盗まれるなんて何でもないわよ、また発行してもらえばいいんだから」とシャーシャーとしている。
相棒は落ち込んでいた、昨日コンピュータを接続出来なかった以上に。パスポートが盗まれたことよりも青春時代7年間過ごした、この大好きなパリでパスポートを盗まれたことがショックだった。明日は朝一番に日本大使館に行かなければならない。

文:吉田千津子 写真:奥村森

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