免許はないのに車はすでに買って車庫に止めてあった。丁度その頃友人が日本に帰国するとの事でチズちゃんが買い受けた。初めは危ないので、ぶつかっても安全なように大きな車にした方がよいとのテリーのアドバイスで、えんじ色の軍艦のようなAMCステーションワゴンの中古車に決めた。
チズちゃんの車は、テリーのワーゲンより座席もゆったりで乗り心地も満点。早速、自動車学校に連絡する。学校の住所を聞こうとすると、受付の係員が「心配いりません、そちらに迎えにゆきますから」と応える。チズちゃんは10日間コースを選んだ。翌日の朝、先生は約束通り車で家までやってきた。
まず車のエンジンのかけ方、車の発進とストップの方法、各種仕様の説明を受けて30分位すると「さっ、始めよう」と言う。こんな短時間の説明で、なんと初日から公道で運転をするというのだ。チズちゃんは「えっ、もう道にでて運転するのですか」と聞くと「Yes,let’s go」と先生。
アメリカでは、ドライビングスクールといっても日本のような立派な教習所はない、即日公道で運転実習する。毎回、教えてくれる先生が車で家の前まで迎えに来てくれる。勿論、車には、生徒と先生用のハンドルとブレーキがそれぞれ二つあり、危なくなると慌てて先生がブレーキをふむ。
日本のドライビングスクールの中にある模擬の道ならともかく、初日に公道に出て運転させられるのはちょっと怖い。ブラジルで運転をしていたので全然運転をしたことがない訳ではないが、それでもビビった。ブラジルではマニュアル車だったが、この時はオートマティク車だったので助かった。
先生は、なるべく交通量の少ない道を選んでゆっくりと運転するように言った。教習時間は約一時間で近所をぐるぐると回った。調子に乗って早く走っていると注意された。必ず左右を良く見てから曲ること、人が横断歩道に一歩足を踏み入れたら、必ず止まってその人が渡るまで待つことなど。
運転練習中の車には「Student Driver」というプレートを付けているのですぐに判る。ノロノロ運転でも、そのプレートがある車を避けて通ってくれる。カルフォルニアのドライバーは練習中でも、急かせたりしないのでノロノロ運転していても、余り気にすることはなく練習が出来るのが良い。
教習が終わると今度は、DMV(Department of Motor Vehicles)に行って筆記試験を受ける。パスするとTemporary Permitという仮免許が貰える。これは同乗者一人が18歳以上で運転免許を持っている人がいれば、運転している本人に運転免許がなくても公道で運転練習が許されるのだ。
DMVの筆記試験はその頃は英語とスペイン語(カルフォルニア州には沢山のメキシコ人が住んでいる)のみ。現在では言語がふえてフランス語、ドイツ語、中国語、韓国語、日本語もあり各言語に対応している。便利になったものだ。
何とか運転を上手になろうと、テリーを隣に座わらせチズちゃんは軍艦のような車を操る事に専念するのだが、そんなにすぐには上手くはならない。もう少しで道路の路肩にぶつかりそうになったり、車線をはみ出したりする度にテリーがワーっと大声を出して怒るので車の中はもう険悪なムード。
あげくの果てに、もう免許なんかいらないからと運転をやめて家に帰る始末。身内が隣に座って運転を教えるのは最悪だとチズちゃんは思ったが、誰も隣に座ってくれる人もいない。仕方なくこんな状態で運転練習をした。それから一カ月ほど練習して、DMVに自分の車を持ち込んで運転試験を受けた。
いよいよ運転試験の日がやってきた。朝からDMVには長い行列が出来ている。チズちゃんの番が来て車に乗り込む。まず右左を注意しながら公道に出る。試験官はチェックノートを片手に右折、左折、ストップサインで完全に停止したかをチェック、少しでも動いたら減点される。
学校近くでは徐行。横断歩道に人が近づき一歩でも足を踏み入れたら即停車。アメリカの道路は広いので、歩行者がまだ近くに来ないのでサッと通ったりすると減点される。日本のように並列駐車の試験はない。アメリカは、ほとんどが頭から突っ込む駐車場ばかりなので並列駐車は必要ない。
日本とアメリカの運転免許取得の違いは、アメリカではなるべく早く運転免許をとらせるよう協力してくれる。というのもロスでは車を運転しないと生活ができない。日本は公共交通機関が発達しているので試験をなるべく難しくして落とそうとしている感があり、その点が違う。
チズちゃんは一回目の試験でめでたくパスして、やっと運転免許を貰った。いろいろテリーに悪態をつかれても我慢をした甲斐があったというものだ。これで晴れて一人で運転ができる。近くのスーパーに行ければ御の字だ。でも高速道路を運転するのは怖くて少し時間がかかった。
アメリカの高速道路は基本無料だ。日本のようにちょっと走ったと思うと直ぐ料金所という事もない。片側5~6車線あるのでゆっくりと車線変更をすることもなく運転ができる。通常60~80マイルで走行している。高速の出入り口さえ気をつければ、後は高速道路の方が街中より運転しやすい。三毛猫タヌー
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