134 ロサンゼルスの雨、その結果

ロサンゼルスは、滅多に雨が降らない。元々砂漠だった所に出来た街だから当然だ。20数年ロサンゼルスに住んでいたが、住み始めた頃に買った折り畳みの傘が帰国するまで新品のままだったことを思い出す。でも一度雨が降り出すと、今の日本のようなゲリラ豪雨となり大変だった。

ロスは、雨に対処するようにつくられていない。排水路の溝は浅く、道路に直ぐに水があふれだす。そんな時は高速道路も大変でバケツをひっくり返した様な雨になり、前方が全く見えなくなる。雨に慣れていないドライバーたちが怖がって道路に立ち往生する事態も起きていた。

そんな風だから、ロサンゼルスの家には雨樋が付いてない所が多かった。勿論、50年物のチズちゃんの家にも雨樋は無かった。そして屋根は日本のような瓦屋根ではなく、シングルという材料で葺かれていた。シングル屋根はアメリカでは一般的で無機系の材料にアスファルトを塗った板状のものだ。

ある日、久しぶりに大雨が降った。テレビを見る部屋デンにポツポツと雨漏りがした。アメリカでは少しの雨漏りぐらいでは業者を呼んだりはしない。大体は家人がDIYの店にゆき自分で修理するのだ。でもチズちゃんは一人だし、どのように雨漏りを修理するのか見当もつかなかった。

そこで隣のおじさん、パピーに相談してみることにした。彼は何でも知り、何でも修理できるスーパーマン。困った事があるとチズちゃんはパビーにお伺いを立て駆け込んだ。パピーは、DIYの店でシングルのロールとコールタールを買えばよいと教えてくれた。

ここで、二軒隣に住んでいたおじさん、パピーの事を少し話そう。パピーの本当の名前はPersy F.Becker(パーシー ベッケル)というが、パーシーという名前が子供の頃から余り気に入ってなかった。それで自分でパピーと改名、通称パピーとなった。だからチズちゃんはパピーの本当の名を何年も知らなかった。

パピーはネブラスカ州生まれのドイツ系移民の3世だ。子供の頃は家ではドイツ語を話していたという。若い頃にカルフォルニアへやって来た。とても働き者で若い頃は仕事を2つ掛け持ちしていたそうだ。夕方帰宅すると夕食をとり、すぐに夜の仕事に出掛けたのだと話してくれた。

パピーと出会ったのはチズちゃんがグレンデールに引っ越してきてからだ。この頃、パピーは既に退職して数年が経っていた。勤めていたのは、あの収賄事件でニュースになった航空機製造のロッキード社である。妻のビューラは美容師で明るく話好き、手先が器用でキルトを愛するアメリカ女性だった。

パピー夫婦は退職後、トレーラーを買ってアメリカ全州を旅することを決め、一年に数カ月は家を空けて旅をしていた。殆どの州を周り終えた後は、カレッジでスペイン語を二人で習い、メキシコにまで足をのばして旅を楽しんでいた。彼らはチズちゃんのめざしていた退職後のお手本だった。

次の日、チズちゃんはDIYの店に行き材料を手に入れた。パピーは親切にも一緒に修理を手伝ってくれるという。長い脚立を屋根にかけ二人で屋根に登った。雨漏りをしていそうな所のシングルをはがした。こんなことは家を買ってから初めての経験だから、相当劣化していたに違いない。

シングルをキレイにはがした後、掃除をして、そこにブラシでコールタールを塗ってゆく。コールタールはベタベタしていて手足につくと取りにくい。髪の毛にでもつこうものなら切らなければならない。パピーの頭には毛が余りなかったのでその心配はなかった。

コールタールの臭いはきつくて吐きそうになった。ロールで買って来たシングルを寸法通りに切ってコールタールの上に張り付ける。シートは見かけよりも重い。水が入り込まないように段々に張り付けて終了。屋根全体ではなく一部なので数時間で終わった。

1人で一軒の家をメンテナンスするのは本当に手間だった。隣にパピーが住んでいなかったら、絶対に出来なかったと、今でもパピーに感謝している。彼は10年ほど前に100歳6カ月で亡くなった。彼には本当に色んなことを教わった。もっともっと色んなことを教えてもらいたかった。

チズちゃんはアメリカに住み始めて、日本では業者に任せてしまうようなことにも挑戦した。家を購入した際、家の中のペンキ塗りを1人ですることにした。壁などは水性ペイントで塗り梁や窓のフレームなど木の部分は油性ペイントで塗った。

DIYの店には、必要なものは何でも揃っている。台所のキャビネットのような大きな物まであり、ペンキの色の多さにも驚く。ペンキは好みの色に作ってくれるのは嬉しい。白でも何%青を入れ、青っぽい白を作るという具合だ。

業者に頼むと高額になるが自分ですると材料費のみで出来るので自分でするのがアメリカ流。パピーは外壁も2~3年毎に80歳近くになるまで自分で塗っていた。やはり、アメリカ人の男も女もパイオニア精神に溢れている。チズちゃんはそういう所を学べたのがアメリカ生活をして良かったと思う。三毛猫タヌー

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