71 アメリカ生活

暇なのでチズちゃんは、以前教会で知り合いになった人達に会いに、ユタ州のソルトレークシティーに行ってみることにした。アメリカに来たら是非遊びにきて欲しいと言われていたから。ロスからソルトレークまでの飛行時間は約2時間。ソルトレークシティーはモルモン教会の本部がある。

教会員で構成される『タバナクル・クワイア』の歌声はアメリカ全土に知られる有名な合唱団だ。彼らはアルコール、コーヒーなど、体に悪いものはとらない。それでモルモン教徒の多いユタ州ではアルコール類はスーパーやコンビニでは買えない。唯一買える場所は州で決められた販売所のみ。

ソルトレイクは、ロスと違い白人の街だ。金髪に青い目が大多数。到着した夜、皆がパーティーを開いてくれ、食事やダンスをして楽しい時をすごした。塩分濃度が海水よりも濃い湖、グレートソルトレイクにも連れて行ってもらった。でも、チズちゃんは、この街がなにか落ち着かないと思った。

アメリカもブラジルも同じような移民の国で、文化も人種も雑多な多文化社会。とはいっても、同じようでも何かが違う。チズちゃんが暮らしたブラジルとアメリカとでは、感覚的に大きな違いがある。

ブラジルに住んでいた時は、自分が外国人であるということを忘れるほど同化できた。でも、アメリカでは自分が日本人であるということを何時も感じさせられる社会だ。こんな事を考えながらロスに帰ってきた。2,3日留守にしていたので郵便受けには沢山の郵便物が溜まっていた。

その中に一枚の走り書きのメモを見つけた。そこには「今日、チャイニーズシアターに『ゴッドファーザー』を観にきました。近所だったので寄ってみましたが、留守でした。気が向いたらお電話下さい」とあり、電話番号と名前が書かれていた。

名前を見てもすぐには誰か思い出せなかった。それは日本の教会で出会った一人の宣教師の名前だった。宣教師といっても18歳になると2年間、教会では宣教師として様々な国に行き伝道する慣わしになっていた。それが終わるとまた大学に復学したり、普通の教会員に戻るシステムになっている。

その連絡先はしまってあったが、直ぐに連絡する気もなくほったらかしてあった。暫くしてチズちゃんはクルー以外に友達もいないし、例の人に連絡をした。すると、彼はすぐに白いフォルクスワーゲンに乗ってハリウッドのチズちゃんのアパートにやって来た。会ってみると、彼には見覚えがあった。

彼の名はテリー。友人がお気に入りの彼だった。今は大学に復学してポリティカル・サイエンスの勉強をしているという。どうしてチズちゃんの住所を知っているのかを聞いてみた。一度チズちゃんが教会宛にハガキを送ったことがあり、その時、掲示板に貼ってあったハガキの住所を書き留めたらしい。

チズちゃんは、ロスに住み始めて余り時間もたってなかった。車も持ってなかったので、テリーが来るたびにスーパーで買い出しをするのを手伝ってくれた。何しろアメリカの食料品はサイズが大きくて重い。車を持っている彼は、チズちゃんには都合よくアッシー君になってくれてとても助かった。

こんな事をしながら、チズちゃんは少しずつアメリカ生活に慣れていった。ある真夜中、この事件は起こった。寝ていると電話がなった。こんな時間に誰がと思い受話器をとる。「Hello」とチズちゃん、相手は無言。すると僅かに氷がグラスにあたる音、続いてハアハアと荒い息づかいが聞こえた。

不審な電話は、次の日も続いた。心臓はドキドキするしどうしたらよいか分からない。電話が鳴るだけで怖くて眠れない。悩んだ末に管理人のケップに相談した。彼女は電話がかかったら真夜中でも構わないから、私に連絡して。私がイタズラ電話に出て追い払ってやるからと言ってくれた。

その晩、また電話がなった。チズちゃんは慌ててケップを呼びに走った。そしてケップは野太い声でこう叫んだ「オイ、お前は誰だ?二度とこんな電話をかけるな」と、それ以来真夜中のイタズラ電話は掛かってこなくなった。でもケップのアドバイスに従い後日電話会社に電話番号を変更してもらった。三毛猫タヌー

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