73 友人Tちゃん

一年ほど過ぎ、やっと東京で一緒に入社した人達が遅れてやって来た。リオでの訓練を終え、ブラジルの労働許可証も取得してロサンゼルス・ベースにやって来た。日本人乗組員が増えて賑やかになった。とはいえ、チズちゃんは一匹オオカミタイプだから、グループを作って遊んだりはしなかった。

その中に唯一、サンパウロに住んでいたことのあるTちゃんというチズちゃんより少し年下の子がいた。彼女は口数の少ない静かな子だった。何故か彼女とは馬が合い、時々フライトの合間に行き来をしていた。彼女は生まれて初めて両親の元を離れての一人暮らしでウキウキしていた。

Tちゃんは乗務員の仕事は余り好きではないらしく、何年かしたら辞めたいと何時も話していた。ある日、突然Tちゃんが「私付き合っている人がいて、ゆくゆくはその人と結婚するの」と唐突に言った。チズちゃんは「誰と結婚するの」と尋ねるとTちゃんは「チズちゃんも知っている人」と言う。

よくよく話を聞いてみると、その人はリオでチズちゃんと訓練を一緒にした、エリザベス・サンダースホームのリュウジ君だという。チズちゃんはビックリした。Tちゃんの両親はまだ知らない。チズちゃんは二人が好きなら結婚をするのは全然かまわないけど、両親はどう言うのかが心配だった。

彼女の父親は、大手銀行役員を務めた人。案の定、両親は大反対。Tちゃんは両親を説得する事もなく、サッサとその結婚を諦め仕事も辞め、数カ月も経たないうちに日本に帰国してしまった。チズちゃんはあっけにとられた。チズちゃんなら親が反対しても自分の考えを押し通すのにと残念に思った。

でも彼女の人生は彼女のもの、好きなように生きればそれで良い。Tちゃんが日本に帰国してからも東京に行くと時々会っていた。Tちゃんの両親にも会って、何故、彼女が結婚をそんなにしたがっているのかが分かった。Tちゃんのお父さんは、とても優しい人で一人娘の彼女はお父さん子だった。

Tちゃんのお母さんは、ちょっと過干渉。でも、両親はとても仲が良い。会う度にTちゃんは、この2年の間に必ず結婚したいと何度もお見合いをして何時も焦っていた。チズちゃんは面白い子だなと思った。そして一年過ぎた頃、めでたく大企業に勤めるハンサムなスポーツマンと結婚する事になった。

Tちゃんは、お父さんの様な人と結婚して仲よし家族を作りたかったのかも知れない。残念ながら18年後、Tちゃんは離婚した。尋ねると相手は、お父さんと正反対の亭主関白、根性スポーツ系、外面はとてもよい人だった。Tちゃんがイメージしていた家族像が叶えられなかったのが原因だった。三毛猫タヌー

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